2019.5.19-6.3
ミティラーの世界
〜受け継がれたインドの手仕事〜
「ミティラー画」という言葉を知っている方はきっと少数ではないでしょうか。
わたしたちは、偶然に出会った、何世代にもわたりミティラー画を描き続けているクマール一家に出会い、その絵の魅力に心を奪われました。
ミティラー画とは、北インドのビハール州北部からネパールの一部に広がるミティラー地方に3000年以上前から伝わる絵画。
メインのモチーフは、神話、月、太陽など宗教や自然に関連するものが多く、
余白を花々や植物、幾何学模様でカラフルに埋め尽くすのが伝統的スタイルです。
母から娘へと何世代にもわたり伝えられ、
本来は村での結婚式やお祭りのたびに家々の壁画を塗り替えるという形でお披露目されていました。
もともとは、壁画として描かれていたミティラー画。
紙として世に出はじめたのは、実は1960年代のことです。
ちょうどこの頃、ビハール州を襲ったひどい干魃がありました。
その救済手段として、当時の首相が壁画を紙に描いて売ることを推奨したことから、
じわじわと世界に広まり、名を知られるようになりました。
女性が描いていたミティラー画もこれをきっかけに男性も描くようになり、
家族全員がアーティストとして絵を描いているケースも少なくありません。
私たちが今回お会いしたクマールファミリーも例外ではなく、
家族全員がアーティストであり、何世代にもわたり絵を描き続けています。
「この絵は妻が描いたんだ」
「その絵は4歳の息子に絵を教えようと思い、一緒に描いた絵なんだ」
「あの絵は70年程前、今は亡き祖母が描いた絵だよ」
と、絵の紹介が、家族紹介のようになっていました。
ミティラー画に使われている顔料もほとんどが植物から作ったもの。
例えば、黒色は煤、赤色は木の皮、など。
自然な顔料なので、最初は色鮮やかでも、
時間とともに、少しずつ色が薄れ、空間に馴染んでいきます。
そして紙は、職人が手で漉き、自然の風で乾燥させます。
天気の良い日は1日で乾くけれど、そうでない日は3日も4日もかかるようです。
その紙と顔料を使い、一筆一筆想いを込めて、手描きで仕上げられる絵。
同じモチーフであったとしても、1枚として同じ絵はありません。
1枚の絵にかかる時間は数日のものもあれば、何ヶ月もかかるものも。
手をかけ、時間をかけられたミティラー画。
ミティラー画を一目見ただけで虜になってしまったのは、絵の魅力に加えて、
一枚一枚の絵にかけられた豊かな時間の流れが伝わってきたからなのかもしれません。
みなさんに、彼らの受け継いだ伝統をぜひ知っていただきたい。
当日は150点もの画が、クラシックにやってきます。
お楽しみに!
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